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釧路地方裁判所 昭和24年(行)3号 判決

原告 脇田登美

被告 士幌村農地委員会

一、主  文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告が昭和二十三年十月二日公告した河東郡士幌村字ワツカクンネツプ六十二番地五十四町六反四歩の買収計画はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として、次の通り述べた。

被告士幌村農地委員会は、原告所有の河東郡士幌村字ワツカクンネツプ六十二番地五十四町六反四歩の土地につき牧野として買収することを計画し、昭和二十三年十月二日これが買収計画を公告した。しかして本件土地の所有者名義は土地登記簿上脇田信吾となつている関係上右買収計画においても同人名義でこれをなしているが、同人は既に死亡し、相続人たる原告がこれを承継して右土地の所有者となつているので右買収計画を違法として即時被告委員会に対し異議の申立をなしたところ、昭和二十四年四月二十五日異議却下の決定があつた。ところで被告農地委員会の樹立した右買収計画は、右土地は山林であつて牧野でないのにかかわらず、牧野としてこれを買収するものであるから、原告は右処分を違法として同年五月十六日北海道農地委員会に訴願したところ、同年八月二十五日附裁決を以て右訴願は棄却された。然しながら右買収計画は次に述べる理由から違法である。即ち本件土地は土地登記簿上山林と表示せられており、現に四十五度の急傾斜をなし全面に樹木が密生している山林であつて、原告はかねてより士幌村森林組合に加入して年々会費を納入してをり、右土地は同組合の第三十二林班を構成している。そしてその施業案における林木育成の方法は天然幼齢林の撫育にあるので原告は右施業案の趣旨に則り専らその天然幼齢林の撫育に努力し来つたものである。右土地現在の林況としては一見貧弱に見えるが、昭和二十二年において樹種は濶葉樹、林齢は十年乃至二十年、立木度は一町当り八百本、その石数一町当り四十石の見事な美林であつたところ、同年中不幸にして山火に遭い大部分の立木は焼失したため、現在は、その根元から発生した稚木が大半を占めて既に丈余の高さに成長し全山に密生してをるのであつて、山火前の林況から推度すれば本件買収計画が樹立せられた昭和二十三年十月当時のそれは自然の成長によつて更に一層の美林になつていたことは疑なきところである。然るに偶々山火という天災により一時的に林況が貧弱になつたことにつけこみ、明かに山林であるに拘らず牧野なりとして買収せんとするは到底許容し難い。しかのみならず本件土地には買収計画当時何等放牧施設もなくまた放牧の用に供せられた事実もなく、採草のために使用せられたこともない。更らに本件土地の買収が違法であることは、本件土地と周囲のそれとの関係を検討することによつて一層明白である。即ち第三十二林班たる本件土地を含む第三十林班乃至第四十林班については、一様に施業案が編成せられ、且つこれらの土地は孰れも天然幼齢林の撫育をその目的とし、その林況も概ね類似し、しかもこの中には牧柵を繞らして放牧の用に供せられてある不在地主の小作地も存するに拘らず、それらの土地は買収処分になつていないのである。然るに本件土地についてのみ買収計画が樹立せられたのは、実は予ねて本件土地に垂涎していた近傍者数名が、これを自己の手中に獲得せんことを画策し、被告委員会を動かしてこれを「開放」せしめようと働きかけた結果に外ならない。かくの如きはまさに牧野買収に名を藉り植林を目的とする山林であることが明かである本件土地を、制度を濫用し法を悪用して強制的に取り上げようとするものと謂わざるを得ない。以上の次第で本件土地の買収計画は違法であるからこれが取消を求むる。

被告の本案前の抗弁に対し、昭和二十四年八月二十五日附訴願棄却の裁決書の謄本が同年九月十四日訴願代理人飯島安三郎(本件訴訟代理人)に送付されたことは認めるが、訴願代理人には訴願の裁決書を受領する権限はない。何んとなれば民事訴訟法には訴訟代理人の権限に関する規定はあるけれども訴願法には訴願代理人の権限に関する規定はないから、民事訴訟代理人が判決の送達を受くる権限があるのと同様に訴訟代理人に訴願の裁決書の送付を受ける権限があるとは謂われないからである。しからば右訴願代理人が訴願の裁決書の謄本の送付を受けたことは訴願人たる原告がその送付を受けたことにはならない。そして訴願人たる原告本人に右訴願裁決書の謄本の送付されたのは同年十月初旬頃である。而して本件の訴は、原告本人の右送付を受けたことによつて訴願の裁決のあつたことを知つた日から一箇月以内に提起されたものであるから出訴期間を経過したものではない。なほ被告のその他の本案前の抗弁も否認すると述べ、

被告の主張に対し、本件土地の南側急斜面は、他の部分に比して冬期における積雪量僅少のため馬が草を食むに便利であるところから、時々数頭の病馬を連れ来つて元気の恢復に資したことがあつたとしても、その部分は全体から見れば取るに足らない僅少部分であつて、到底これを「放牧」とは称し得ない。牧柵は本件買収計画公示後である昭和二十四年六月頃訴外遠藤泉が農地委員長瀬健市の示唆に基き、本件土地が他人の手に売渡しになることを防止する目的で俄かに作つたものであり、右買収計画当時は何等牧柵等の施設はなかつたものである。本件土地南側急斜面の麓の約一町歩余の平坦地は刈草に適しているため買収計画公示後の昭和二十四年に訴外三浦弁蔵外数名の者が何等の権限なくしてこれに立ち入り採草をしたことはあるが、これは原告の全然与り知らぬところである、と述べた。

次に予備的申立として、被告が昭和二十三年十月二日公告した河東郡士幌村字ワツカクンネツプ六十二番地五十四町六反四歩の買収計画は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、自作農創設特別措置法施行規則(以下自作措置法施行規則という)第二十八条の五によれば、面積二十町歩以上の牧野を所有する者の牧野につき牧野買収計画を定めるに市町村の区域に設置される団体にあつては、都道府県知事の指定する農耕、森林、畜産、農業経営及び開拓に関する事務に従事する専任職員各一人を以て組織する団体に諮問すべきものであるに拘らず、実際においては斯くの如き団体は未だ嘗て組織せられたことなく、従つて本件買収計画において斯る手続を経なかつたこと明かであるから、本件買収計画は右規定に違反するを以て無効である。仍つてこれが無効確認を求めるものであると述べた。(立証省略)

被告代表者は本案前の抗弁として、原告の訴を却下するとの判決を求め、その事由として、原告主張の被告が原告に対し昭和二十四年八月二十五日附訴願棄却の裁決書の謄本を原告の訴願代理人飯島安三郎において送付を受けたのは同年九月十二日である、しかして代理人に送達されるとその効果は本人に及ぶから、訴願棄却の裁決処分を原告が知つた日は同年九月十二日であると謂うべく、従つてこれより一箇月を経過した後である同年十月十九日提起せられた本件の訴は出訴期間経過後の不適法な訴として却下さるべきものである。又本訴は、訴願を棄却した北海道農地委員会を被告とすべきであるのに、士幌村農地委員会を被告としたのは不適法である。また、原告は静岡県に在住する不在地主であつて訴外遠藤泉は本件土地を原告から借りて居るに過ぎないものであるところ、右遠藤が原告と相はかることなく勝手に本件訴訟代理人と相談の上本訴提起に及んだものであつて、原告本人は何等これに関知しないものであるから、本訴は原告の氏名を冐称して提起されたものであつて無効である。本案に対する答弁として、原告の請求を棄却するとの判決を求め、原告の主張事実のうち、本件土地が原告の所有地であること、原告の主張するように本件土地に対する買収計画の樹立及びその公告並にこれに対する異議の申立及びその申立却下の決定のあつたこと、原告が右買収計画の樹立に対し、不服として北海道農地委員会に訴願したところ原告主張日時訴願棄却の裁決のあつたこと、その主張のように原告が本件土地につき士幌村森林組合に加入し森林施業案が編成せられたこと、昭和二十二年五月本件土地が山火に遭つたことは孰れもこれを認めるが、その余の主張事実はこれを否認する。本件牧野買収計画は被告農地委員会において土地の現況を具さに調査した結果これを買収し得る牧野と認定したものであつて、昭和二十四年一月二十一日附二四農改第九七号農林次官通達及び同年二月二十三日二四農改第五四一号通達に則り、当該土地の使用目的及び疎密度等を標準として認定したものであるところ、本件土地は、その傾斜度は馬匹の放牧に何等支障なく牧場として適地であるのみならず、樹冠の疎密度は三十%以下であつて、そしてその主たる使用目的が馬匹の放牧にあつたことは、訴外遠藤泉が本件土地の小作人であつて久しい前から本件土地を馬匹の放牧に使用していたことは附近部落民周知の事実であつて昭和二十一年には隣地たる訴外千葉彌七の土地との境界上に牧柵を設け、また遠藤泉から被告農地委員会に対する本件土地の売渡の申込において、同人が昭和十九年から本件土地を、その牧柵鉄線を改柵して馬匹の放牧に使用して現在に至る旨述べている事実によつて明かである。原告は士幌村森林組合に加入しているというも、昭和二十年度以降はその組合費を納入していないのみならずその施業案の実施について何ら方針の申出もなく、またその協議に及んでないし、森林経営を計画したり林木育成を企図したような何らの事跡がないのを見ても原告において本件土地につき林木育成を目的としたものでないことが明かである。そうして土地の所有者が森林組合に加入したことや当該土地につき施業案が編成されたことや、その地目が山林と表示されたことなどは、それだけでもつて自作農創設特別措置法(以下自作措置法という)に基く牧野買収計画の樹立に何等の妨げとなるものではない。

以上の次第であつて本件土地は自作措置法第四十条の二第一項第一号に該当する小作牧野であること明かであるから、被告の定めた本件買収計画は適法であり、原告の主張は理由がないと述べ、

原告の予備的請求に対し、請求棄却の判決を求め、その理由として、本件土地は小作牧野であるから、専ら自作牧野について適用ある自作措置法施行規則第二十八条の五が適用せらるべきではない。従つて同条所定の手続を経る必要はないのであるから、これをしなかつたからといつて何等の違法はなく、原告の右主張は理由はないと述べた。(立証省略)

三、理  由

先づ被告の本案前の抗弁について判断する。原告所有の河東郡士幌村字ワツカクンネツプ六十二番地五十四町六反四歩の土地について、被告農地委員会が、自作措置法第四十条の二第一項第一号に基いて昭和二十三年十月二日立てた牧野買収計画に関し、原告が本件訴訟代理人を代理として被告委員会に異議の申立を為したところ、昭和二十四年四月二十五日右異議が却下せられ、次いで同年五月十六日北海道農地委員会に訴願したが同年八月二十五日附を以て右訴願が棄却せられたことは孰れも当事者間に争がない。被告は本件の訴は訴訟代理権を冐称する代理人によつて提起されたもので、原告の関知しないものであるから、訴の提起行為は無効であると抗弁するにより按ずるに、原告本人の訊問調書、本件訴訟記録に添附された訴訟委任状、本件訴状受附印に徴すれば、原告は本件訴訟代理人に本件訴訟の代理を委任し、本件の訴が昭和二十四年十月二十日、右訴訟代理人によつて提起されたことが明かであつて、ほかに右認定を覆す何等の証拠はないから被告の右抗弁は理由がない。

次に被告は本件の訴は、訴願棄却の裁決処分をした行政庁たる北海道農地委員会を被告とすべきものであるのに原処分庁たる士幌村農地委員会を被告としたのは違法であり、本訴は却下さるべきものである旨抗弁するも、行政庁の違法な処分の取消又は変更を求める訴は、(法律に特別の定めある場合を除いて)処分をした行政庁を被告としてこれを提起しなければならないのであるが、訴願の裁決処分において原処分が是認された場合には、原処分はなお有効に存在するのであるから、その裁決に不服である場合の訴は原処分庁及び裁決庁のいずれをも被告として差支ないものと解すべく、本件において原告は士幌村農地委員会の樹立した牧野買収計画を違法なものとしその取消を求めた訴願につき訴願庁たる北海道農地委員会が原処分を維持したのでその裁決を不服として原処分の取消を求むるものであるから原処分を為した士幌村農地委員会を被告としたことは正当であつて被告の右抗弁は理由がない。

次に本件の訴は出訴期間を経過した後に提起されたものであるかどうかの点について判断する。原告主張の訴願裁決書の謄本が、昭和二十四年九月十四日訴願代理人飯島安三郎に送付された事実は原告の自認するところである。原告は訴願法には民事訴訟法にあるような代理人に関する規定はないから訴願代理人には訴願の裁決書の送付を受ける権限はない。従つて訴願の裁決書が訴願代理人に送付されても訴願本人に送付されたことにはならない。而して右訴願の裁決書の謄本が訴願本人たる原告に送付されたのは同年十月初旬頃であり、本訴は原告が右裁決書の謄本を受領してその裁決処分のあつたことを知つた日から一箇月以内に提起されたものであるから被告の抗弁は理由がない旨主張するのであるが、民事訴訟法ではその裁判の本質は当事者の自由に処分することができる利益に関する紛争の解決にあるところから、当事者が訴訟を処分し得る原則が採用され、且つ訴訟は口頭弁論で追行されるのでその進行に連れて訴訟代理人が委任を受けた事件の処理に必要な幾多の関連した事項が伴われるから代理人の権限に関して必要な規定が民事訴訟法に設けられたのであるけれども訴願は行政庁の為した処分を不当又は違法であるとして、上級行政庁にその処分の匡正を求めるものであり、その手続は原則として口頭審問をしないで訴願文書について裁決するのであるから、訴願代理人の権限について訴願法に規定を設ける必要がないまでのことであつて、訴願法にそのような規定がないからとて、訴願には代理を許さないと謂われないばかりでなく、(原告もこのような主張はしない)このような規定がないから訴願代理人にはその代理した訴願の裁決書の送付を受領する権限はないと謂うことはできない。訴願代理人は訴願人の訴願に関する行為の代理であつて特にその授権行為で訴願の裁決書の送付を受領する権限を制限しないかぎり(この事実は原告の主張しないところである)訴願に関してその開始から終了までの代理であるからその裁決書の送付を受領する権限を有することは当然のことであつて、この点は民事訴訟代理人が訴の提起から訴訟の完結までその代理権を有し、従つて裁決の送達を受ける権限を有することが訴訟代理の性質上当然のことで、その権限が民事訴訟法の規定を俟つて生ずるものでないことと同一である。

然らば右訴願代理人が訴願裁決書の謄本の送付を受けてこれを知つたからには、その効果は訴願本人たる原告に及ぶべきものであり、自作措置法第四十七条の二に規定する当事者というのは訴願が代理人によつて行われた場合の訴訟代理人をも意味するものと解するのが相当である。そうして原告の本訴請求は右法条による行政庁の処分で違法なものの取消又は変更を求むる訴に該ることはその主張自体明かであるから、原告の本訴は右訴願代理人が裁決書の謄本の送付を受けた昭和二十四年九月十四日から一箇月以内に提起しなければならぬものである。しかるに本訴が同年十月二十日に提起されたことは本件記録上明瞭であるから、本訴は出訴期間経過の後になされた故をもつて不適法のものと謂わざるを得ない。よつて被告の本案前の抗弁は理由あり、本案に入つて判断するまでもなく本訴は不適法として却下を免れない。

しかるところ本訴において原告はその予備的請求として、本件牧野買収計画の無効確認を求めた、行政処分の無効確認の訴は出訴期間の制限を受けないと考えられるので、その無効確認を求むる趣旨においては本訴は適法な訴であるというべく、よつてその請求の当否について判断する、原告は本件牧野買収計画はこれを定めるには自作措置法施行規則第二十八条の五により、予め道知事の指定する士幌村の、専任職員の組織する団体に諮問しなければならないものであるところ、被告農地委員会はこの諮問機関の諮問を経ないで本件牧野買収計画を定めたから、その買収計画を定めた行為は法定要件を欠缺する無効のものであると主張するも、牧野の買収計画を定める手続において都道府県知事又は市町村の専任職員の組織する団体に諮問しなければならない場合は、その買収の対象となる牧野は自作牧野であつて小作牧野でないことは、自作措置法施行規則第二十八条の五の規定自体から明瞭であつて、他の解釈を挿む余地はない。証人遠藤泉(第一回)の陳述及び成立に争のない乙第一号証を綜合すれば、本件買収の対象となつた土地は訴外遠藤泉が昭和十四年以来原告先代脇田信吾から借り受けて馬匹の放牧に使用し来り原告先代死亡後も引続き原告から借り受けて馬匹の放牧に使用して本件買収計画の樹立された時までに及んだ事実が認められ、本件土地は原告の自作牧野でないことは明かであるから、これに対する牧野買収計画を定むるには自作措置法施行規則第二十八条の五によるべき限りではない。従つて本件牧野買収計画を定むる手続において士幌村の専任委員の組織する団体に諮問することを要するものでない。既に然らば原告の本件牧野買収計画は右諮問機関に諮問しないで定められたものであるから無効であるとの主張は理由がなく、原告の本訴請求はその余の判断をするまでもなく失当であるからこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟特例法第一条民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 小坂長四郎 大久保浩 佐藤幸太郎)

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